Hib vaccine開発の歴史、 Hibの抗原だけではダメだった

ワクチン

乳幼児の死因

 1990年から2015年の期間で世界の乳幼児の死因を調査した研究1)によると先天性心疾患及び不慮の事故以外による要因は下気道感染症(肺炎)が最も多く、次いで髄膜炎、下痢症、麻疹でした。

 細菌性肺炎の原因菌はインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)と肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)がほとんどを占めています。髄膜炎においてもインフルエンザ菌、肺炎球菌そして髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)が主な起炎菌になっています。インフルエンザ菌と肺炎球菌は乳幼児にとって脅威です。これらの細菌に対するワクチンは19世紀初頭から開発がすすめられました。

 全文閲覧できるインフルエンザ菌感染症発生動向調査が2つありました2) 3)。1つはスウェーデンで1981年から1983年の2年間の調査とイギリスのNorthern、North-Western、East-Anglia、Oxford、South-Westernの5地区とWalesのBangorのGwynedd病院で行われた1990年から1992年の2年間の調査です。

 スウェーデンの調査では500件のインフルエンザ菌感染症が報告されました。その内、307件(61.4%)が血清型「b」、3件(0.6%)が血清型「f」、5件(1%)がNon-typable株、残り185件(37%)は不特定でした。

 イギリスの調査では全地区を合わせて946件のインフルエンザ菌感染症が報告されました。その内、772件(82%)が血清型「b」、95件(10%)がNon-typable株、4件が血清型「e」、8件が「f」、残りの67件(7%)は不特定でした。

 どちらの調査でも血清型「b」による感染症が最も多いことがわかります。また、年齢別では5歳未満において血清型「b」の割合はスウェーデンの調査273件(54.6%)、イギリスの調査680件(71.8%)でした。血清型「b」が予防するべき対象であるためHib(ヒブ:haemophilus influenzae b)ワクチンの開発がすすめられました。

ほんのちょっと細菌学

 ここで「血清型」ってナニ?と疑問に思われたのではないでしょうか?

 少し脱線しますが、莢膜とは真正細菌が細胞壁の更に外側に持つゲル状の粘液質で、成分は多糖類やポリペプチドです。莢膜があることで免疫細胞による排除がされにくく、高病原性であることが多いようです。

 同じ細菌でも莢膜を形成する株としない株があり、更に株により形成する莢膜の抗原性に違いがあり、その分類を血清型と言います。インフルエンザ菌はa~fまでの6種あります。先ほどの「b」はこの血清型「b」のことです。無莢膜株は血清型で分類できない為、non-typable(NT)と表記されることが多く、NTHiと略すこともあります。

ワクチンの臨床研究

 恐らくHib vaccineの効果を検証した研究で最も古いと思われる論文はこれではないでしょうか。

Haemophilus influenzae type b capsular polysaccharide vaccine in children: a double-blind field study of 100,000 vaccinees 3 months to 5 years of age in Finland.4)

 この研究ではインフルエンザ菌莢膜由来のポリサッカライドを用いたワクチンの有効性を検証しています。行われた試験の内容を要約してみました。

<妥当性の検討>

タイトルにも「a double-blind」とあります。ITTとは明記されていません。年齢は生後3か月から5歳、3地区の130178人が登録され、研究終了時98272人完了(75.5%)。脱落も2割弱で大きな問題はなさそうです。

<手順とPECO>

追加投与は生後3か月から17か月の小児へ初回投与から3か月以上後に投与された。追加投与実施は全体の73.3%。

P:3地区、5歳以下の小児130178人(試験終了時98272人)

E:Hib vaccine投与群48977人/コードM2

C:meningococcal vaccine投与群49295人/コードをM1

O:Hib vaccineによるインフルエンザ菌感染症の予防効果

副反応、抗体応答率、鼻咽頭コロニー形成率について1000人を対象に追跡調査。抗体検査のための血液検査は初回投与後3週間後と追加投与の3週間後に採取し、さらに初回投与後17か月後に再採取。

<結果>

 まず、副作用から書かれています。珍しいですね。全て軽微なもので、注射部位の紅斑と痛みが75%あった。発熱も直腸温度38.5度を超える例はなかったとのことで、安全性に大きな問題は無かったようです。

 1974年から1976年まで観察され、その間に41件のインフルエンザ菌感染症があった。1年目で27例、2年目で14例。26例(63%)が髄膜炎、9件(22%)が喉頭蓋炎、あと関節炎と蜂窩織炎であった。死亡率は7.3%(3件)。

 80%が血液から、56%がCSF(脳脊髄液)から培養された。

 Table1を見ると18か月未満児の抗体レベルがmeningococcal vaccine摂取群と差が見られません。対して18か月以上児の抗体レベルはmeningococcal vaccine摂取群よりも上昇しています。

文献3より引用

 感染症発生動向はTable3を見るとHib vaccine摂取群1年目で7例、2年目で1例インフルエンザ菌感染症の罹患があり、この論文では18か月未満では効果がなかったと結論付けています。

文献3より引用

 この要因として免疫の未成熟があるようです。免疫において重要な役割のある免疫グロブリン、そのうち母体からの胎盤を通過できるのはIgG抗体のみです。出生直後は母血と同等であった濃度は生後3か月後ぐらいでほぼ半分ほどになってしまい、そこから徐々に成熟が進み就学時(6歳ごろ)に成人と同レベルとなります5)。3か月以上18か月未満では抗体産生能が低く、免疫形成が不十分だったようです。

 現在、Hibワクチン接種の標準スケジュールは生後2か月から1か月毎に3回打ち、7か月後にもう1回です。生後2か月から接種しても効果が得られるようになるまでどのような過程があったのでしょうか? それについては次回に。

  1. GBD 2015 Mortality and Causes of Death Collaborators. Global, regional, and national life expectancy, all-cause mortality, and cause-specific mortality for 249 causes of death, 1980-2015: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2015. Lancet. 2016 Oct 8;388(10053):1459-1544. doi: 10.1016/S0140-6736(16)31012-1.
  2. Trollfors B1, Claesson BA, Strangert K, Taranger J. Haemophilus influenzae meningitis in Sweden 1981-1983. Arch Dis Child. 1987 Dec;62(12):1220-3.
  3. Anderson EC1, Begg NT, Crawshaw SC, Hargreaves RM, Howard AJ, Slack MP. Epidemiology of invasive Haemophilus influenzae infections in England and Wales in the pre-vaccination era (1990-2). Epidemiol Infect. 1995 Aug;115(1):89-100.
  4. Peltola H, Käyhty H, Sivonen A, Mäkelä H. Haemophilus influenzae type b capsular polysaccharide vaccine in children: a double-blind field study of 100,000 vaccinees 3 months to 5 years of age in Finland. Pediatrics. 1977 Nov;60(5):730-7.
  5. 大阪医科大学小児科学教室 北川 秀雄. 未熟児, 新生児, 乳児における免疫グロブリンと抗菌, 抗毒素抗体産生について. アレルギー工9 (7 ),574 −560, 1970 (昭45).
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